とくまる在宅クリニック

後期高齢者の心肺蘇生-その慎重な選択

query_builder 2023/11/02
コラム

心停止は、突然心臓が血液を体中に送ることを止めることを意味し、すぐに適切な医療措置を行わない場合、生命に関わる非常に緊急の状態です。

しかし、75歳以上の高齢者においては、この医療措置の選択は非常に複雑になります。

緊急事態に際して、誰もが心肺蘇生(CPR)を望むわけではありません。特に、院外で心停止を経験する高齢者において、生存率と質の高い生活を保つことが困難な場合があります。


実際に、75歳以上の院外心停止高齢者のうち、心肺蘇生を行い1か月後に神経学的に良好な状態(CPC1-2)で生存しているのは約0.88%にすぎません


神経学的予後が良好とは、具体的にどういう状態を指すのでしょうか?

これは、Cerebral Performance Category(CPC)という指標を用いて評価されます。


CPCスコアは1から5まであり、CPC1は日常生活に影響がないか、ほとんど影響がない状態を、CPC2は障害(麻痺など)はあるものの、ほぼ自立した日常生活が可能な状態を意味します。

これに対して、CPCスコアが高くなるにつれて、より深刻な障害があることを示し、CPC5は脳死または死亡を意味します。


CPCスコア説明
CPC 1軽度障害:患者は独立した日常生活を過ごすことができる。身体的・脳的な障害がほとんどなく、働くことができる。専門的な訓練や高度な脳的な作業が必要な仕事をすることができる。
CPC 2中等度障害:患者は日常生活において何らかのサポートが必要な場合がある。保護された状況で簡単な仕事はできるが、高度な訓練や高度な脳的な作業は難しい。片麻痺、けいれん、構音嚥下障害なども含まれる。
CPC 3重度障害:意識あり。脳の障害により日常生活に介助を必要とする。"Locked-in"症候群のように意識はあるが、身体が動かせない状態も含まれる。
CPC 4極重度障害:患者は常に介護が必要で、身体的、脳的障害が非常に重度である。自らの意思での動きや意識の応答がほとんど、または全くない。
CPC 5死亡または脳死:患者は脳死状態または死亡している。


心肺蘇生を行うか否かは、個人の価値観や死生観に大きく依存します。

一部の人々は、可能な限り長く生きることを望んでおり、心肺蘇生を望むかもしれません。一方で、質の高い生活を送ることや、特定の状態で生存を望まないという考えを持つ人もいます。


このような背景から、上述の統計を踏まえた上で、自分にとって何が最善かを検討し、決定することが重要です。

さらに、どのような状況下でどのような治療を受けたいかを事前に家族や医療提供者と共有しておくことが極めて重要です。


これは、事前指示(アドバンスディレクティブ)や心肺蘇生に対する事前同意(DNRオーダー)を文書化することによって行われます。

これにより、もし心停止が起こったとき、個人の意思が尊重された上で適切な対応がなされることになります。


心停止という緊急事態に直面したとき、個々の状況に応じた最善の選択をするためには、上記のような情報を事前に知っておくことが不可欠です。

医療の進歩は目覚ましいものがありますが、それによる延命が必ずしも個々の価値観に合致するとは限りません。


高齢者自身、またはその家族が、十分な情報に基づき、尊厳をもって自らの選択を行えるよう、私たち医療提供者もサポートする責任があります。


参考文献:高齢者院外心停止例における神経学的転帰良好を伴った生存率の経時的変化https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjcsc/25/1/25_22/_pdf/-char/ja