排尿障害、頻尿(夜間頻尿)について
頻尿なのか、多尿なのか
排尿障害は著しくQOLを低下させる病態の一つです。
失禁の恐怖から外出を控えたり、夜間頻尿のためにまとまった睡眠をとることができなかったり。
在宅・訪問診療の患者さんでも排尿障害についての相談を受けることが多くあります。
排尿障害の治療の場合、まずは排尿日誌をつけてもらうことになります。
記載する内容としては
- トイレに行った時間と排尿の量
- 水分を摂った時間と量
- 尿漏れがある場合はその時間
- 尿意切迫感を感じた時
になります。
この記録を元に、多尿(尿がたくさん出ているのか)なのか、頻尿(1回の尿の量は少ないけれど尿の回数が多い状態)なのかを判断します。
多尿の原因として糖尿病、尿崩症、水分の過剰摂取、利尿薬投与などがあります。
頻尿の原因として女性であれば過活動膀胱、男性であれば前立腺肥大症をまずは考えます。
ただし膀胱炎などで頻尿を起すこともあります。
夜間頻尿の場合「頻尿だから眠れないのか、あるいは眠れていないから頻回にトイレに行くのか」という問題も出てきます。
下肢浮腫のある方が、夜間就寝時に臥位をとることで、下肢の水分が中心に還流し結果として夜間の尿量が増える夜間多尿という病態もあります。
過活動膀胱に対する薬物治療
過活動膀胱の治療には膀胱の筋肉を「ゆるませる」薬剤を使用します。
抗コリン薬とβ3作動薬という薬があります。
抗コリン薬は高齢者に対して使用すると認知症発症・増悪のリスクがあります。
特に「ポラキスⓇ」という薬は認知症増悪について証明されています。
ちなみに認知症進行抑制に対して使用されるアセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は
「コリン」の働きを増す薬になります。逆にAChE阻害薬の副作用に「失禁」があります。
このように「抗コリン薬」と「AChE阻害薬」は真逆の薬です。
ただし抗コリン薬の中にも脳内への移行性の少ないタイプや膀胱にのみ効きやすいタイプ(つまり認知症のリスクを上げにくい:トビエースⓇなど)があります
抗コリン薬で想定される他の副作用として口の渇きや便秘の悪化があります。
β3作動薬(ベタニスⓇなど)は比較的安全に使用でき、認知症リスクを上昇させないことが証明されています。抗コリン薬に対して効果も非劣性ですが心血管系への作用(血圧上昇)に注意が必要です。
β3作動薬のみで効果が不十分な場合には抗コリン薬を併用することもあります。
前立腺肥大症に対する薬物治療
高齢男性の頻尿の場合にはまずは前立腺肥大症を疑います。
前立腺肥大症の症状として残尿感、尿線途絶、頻尿、尿の勢いの弱さ、腹圧排尿(おなかに力を入れないと排尿できない)などがあります。これらの有無を確認します。
直腸診や腹部エコーで前立腺の腫大の有無を確認します。
前立腺肥大症の治療薬として
選択的α1遮断薬
PDE5阻害薬
それに追加するならば
5α還元酵素阻害薬があります。
選択的α1阻害薬 それぞれに特徴があります。1日何回内服かも重要な要素の一つです
ハルナール 1日1回 ユリーフとフリバスの中間的存在
ユリーフ 1日2回 排尿障害により効果的
フリバス 1日1回 膀胱過敏により効果的
PDE5阻害薬 飲み合わせ注意が多く、また直近の心疾患、脳血管障害の既往でも禁忌になります。
タダラフィル 1日1回
上記薬剤を使用しても頻尿の改善が乏しい場合には過活動膀胱の治療薬を併用することがあります。抗コリン薬は前立腺肥大症に対して単独使用は禁忌(尿閉のリスク)ですがα1遮断薬と併用下では使用できます。
非薬物的アプローチ
まずは水分摂取量の適正化が考えられます。
水分摂取量の目安としては一般的には体重の2% 体重が60㎏であれば1200ml程度
(基礎疾患により水分摂取量の目安は異なります)
夜間頻尿で困っている場合には夕方以降の水分摂取やコーヒー、アルコール摂取を控える。
下肢浮腫のある方で臥床により静脈還流が増加して夜間多尿となる方は、日中30分ほど横になって昼寝をしてもらう
行動療法として
膀胱訓練(Bladder Training) 尿意を感じてもすぐにトイレに行かず尿を膀胱にためる練習をする 機能的膀胱容量の増加を図る
尿漏れに対して 骨盤底筋群のトレーニングを行う