死亡直前と看取りのエビデンス①
死亡直前と看取りのエビデンス 森田達也先生 白土明美先生 医学書院
この本は緩和ケアに携わる医療者は一度は読んだことがあるでしょうか。
「エビデンス」というと医学的妥当性のみを検討する印象がありますが、
この本のすごいところは患者さん・患者さん家族の心理的側面にもしっかり検討を加えてあるところです。
一例として、終末期の輸液について
一般的に終末期には輸液は体液過剰の原因となり、行っても少量にとどめるとされています。
これについて本書でも
患者さんの口喝は輸液以外の方法で緩和できる
輸液量1000ml/日以上は浮腫・腹水を悪化させる
余命が週単位になった時の1000ml程度の輸液は生命予後に影響しない
ことをエビデンスを踏まえて示してあります。
一方で終末期がん患者と家族が輸液についてどのような考えを持っているかを調査した研究についても言及されており
輸液をすることで「無意味な延命になる」と考える患者・家族がいる一方で
点滴をしないことで「寿命が短くなる」「苦痛な症状が増える」「気持ちの上で不安だ」と感じる患者・家族も多いようです。
実際には終末期では脱水のほうがつらくなく、溢水(水分過剰)のほうがつらくなるわけですが、500-1000ml/日の輸液を行うかは患者・家族の価値観を重視する必要がある、とまとめてあります。
ちなみに私自身は、終末期で点滴を希望された場合は、まずは溢水が起こりうる可能性とその症状について説明します。
それでも希望された場合には500ml/日程度から開始し、点滴開始前に「浮腫など体が水分をうまく使えない状態が少しでも出てきたら点滴をやめることを相談しましょう」と伝えることが多いです。
ほかにも本書には終末期ケアに役立つ知識が満載です。
今後も少しずつ紹介していこうと思います。