むせ、誤嚥、ーその原因は?
誤嚥とは
ご自身でできる誤嚥のセルフチェックがあります。
まず誤嚥とは口から食道に入るべきものが誤って気管に入ってしまうことを言います。
誤嚥により肺炎を起こす場合、誤嚥性肺炎といいます。
口から食べ物を食べていない状態でも口腔内の雑菌を含んだ唾液を誤嚥することで誤嚥性肺炎を起こすこともあります。
嚥下障害を疑う徴候・症状
誤嚥が起きるのは嚥下機能が低下するためです。
嚥下障害の可能性があるとき、患者さんに答えていただく質問用紙があります。
1つでもAがあれば「嚥下障害あり」、Bがいくつかあれば「嚥下障害の疑いあり」となります。
また嚥下障害のスクリーニング検査(嚥下障害の可能性がある人を選び出す検査)として反復唾液嚥下テストがあります。30秒間でなるべく多く空嚥下(つばを飲み込む)して頂くというテストです。(厳密にはのど仏の動きをきちんと確認する必要があります)
30秒で3回以上つばを飲み込むことができなければ嚥下障害の可能性ありとなります。
ただし、嚥下機能低下といっても様々な原因・要素があります。よく理解するためには嚥下がどのように行われているか知る必要があります。
嚥下5期
嚥下は次にあげる5段階のフェーズから成り立っています。
先行期ー食物を認識して食べ物が何か、一度に口に入れる量、どのくらい噛めばいいかなど判断する時期
準備期ー食べ物を口に運び咀嚼して細かく飲み込みやすくする時期
口腔期ー口の中のものをのどもと(咽頭)送る時期 舌の動き、舌圧が重要です
咽頭期―嚥下反射により咽頭から食道へ食塊を送る時期※反射とは体がある条件下で無意識に起こす運動
食道期ー食道は口と胃をつなぐただの管ではありません。蠕動運動し胃まで食塊を移送します。
先行期
認知機能低下や高次脳機能障害の影響を受けます。口の中に大量に食べ物をかきこんで喉を詰まらせてしまうなども先行期の問題といえます。覚醒状態が不良なども先行期の問題です。
初期-中等度までの認知症であれば抗認知症薬などにより改善することもあります。
準備期
食べ物を咀嚼して食塊を形成し飲み込みやすい状態にする時期です。唾液分泌の低下は準備期および口腔環境に悪影響を与えます。また唾液分泌低下が味覚低下を惹起することもあります。
口腔期
食塊を喉元(咽頭)に送り込む時期です。舌の運動が重要になります。加齢により舌圧(舌の力)は低下します。
咽頭期
喉元に来た食塊は嚥下反射により食道に送り込まれます。反射運動は無意識の運動です。
嚥下は中枢性の随意運動(つばを飲み込んでくださいと言われてつばを飲み込む)の末梢性の反射運動(食事の時食べ物を飲み込む無意識下に行う運動)に分けることができます。
食道期
食道から胃に食べ物を送り込む時期です。狭窄や食道の運動低下は胸のつかえ感の原因となります。また下部食道括約筋の弛緩は逆流性食道炎の原因になります。いったん胃に入って胃酸を含んだ食物が逆流しそれを誤嚥した場合には通常の誤嚥性肺炎より重篤な状態になります。
嚥下反射
嚥下反射は無意識の反射運動で加齢や疾患(脳血管障害、神経筋疾患など)により低下します。
ただ嚥下反射はある種の刺激により活性化することが知られています。
まず味覚です。味覚刺激は嚥下反射を誘発しますが、高齢になると味覚を感じにくくなる(味覚閾値が上昇する)ことが知られています。味覚刺激が嚥下反射を誘発することを利用した食前に使用するカプサイシンフィルム剤などがあります。
味覚障害に関しては、特発性、亜鉛欠乏性、心因性などがありますが、前2者に関しては亜鉛補充で改善することが多いようです。
様々な薬を内服している方だと、亜鉛が吸収されにくくなることもあるようです。
亜鉛サプリメントよりは血液中の亜鉛濃度を測定して、亜鉛補充の処方薬を用いましょう(有効成分の量がかなり違います)。
また口腔乾燥がある場合には口腔乾燥に対する治療を行うことで味覚が改善することがあります。→リンクに詳しいです。
また、嚥下リハビリテーションではのどのアイスマッサージも行われます。凍らせた綿棒に水をつけて口の中や喉元に冷感の刺激を与え、嚥下反射の誘発を行います。
同様の訓練で氷なめ訓練というものもあります。やはり冷温刺激が嚥下反射を誘発するようです。
嚥下に悪影響を与える可能性のある薬剤
先行期に関しては向精神薬、抗不安薬により過度に鎮静状態になり覚醒不良となることが挙げられます。
準備期・口腔期に関しては、唾液分泌低下をきたす抗コリン作用を有する薬剤(抗うつ薬、抗認知症薬など)があります。ただし抗認知症薬に関しては認知症の方の先行期を改善する可能性もあります。
咽頭期についてはベンゾジアゼピン薬の長期使用が挙げられます。輪状咽頭部協調不能、誤嚥など咽頭期の嚥下障害を引き起こす可能性があります。
食道期に関しては下部食道括約筋の弛緩を起こすカルシウム拮抗薬などが挙げられます。
ただし、上記の薬剤が必ずしも個々人の嚥下障害の原因であるとは言えません。
薬剤の調整は主治医の先生と相談の上で行う必要があります。