抗菌薬吸入療法-在宅医療での可能性 慢性呼吸器感染症に対するトブラマイシン吸入療法を中心に 

query_builder 2021/05/30
ブログ

吸入療法とは? そのメリット


抗菌薬の吸入療法についてご存じでしょうか?


まず一般に、吸入療法というのは、粉末(ドライパウダー)もしくはミスト(霧状)の薬剤を吸い込んで肺の中に行き渡らせるという治療です。

なので呼吸器疾患において発展してきました。


一番イメージしやすいのが気管支喘息に対するステロイド吸入薬です。

粉状の薬剤(DPI)もしくは霧状の薬剤(pMDI)を毎日定期的に吸入することでぜんそくの発作を予防したり、あるいは発作が起きた時に発作を鎮めるために気管支拡張薬の吸入を行うこともあります。


吸入薬のメリットはお薬の有効成分が主に肺を中心に働くことです。

飲み薬の場合は、胃腸から吸収された後、お薬の有効成分が血液の流れに乗って全身に回ってしまいます。

その場合、本来お薬が作用してほしくない肺以外の部位にもお薬が作用してしまいます。

吸入薬もわずかな量は肺の粘膜・血管から吸収されて全身に回ってしまうこともあるのですが、飲み薬と比較すると肺以外へのお薬の作用はくらべものにならないほど抑えることができます。


吸入ステロイドを例にとると、内服のステロイドでは胃潰瘍、血糖値上昇、血圧上昇、骨粗鬆症などのリスクが上昇しますが吸入ステロイドでは通常量では全身の副作用はほぼありません


抗菌薬吸入療法

いくつかの抗生物質も吸入で使用することができます。肺に作用するため肺の感染症の予防・治療が目的になります。


ベナンバックス吸入療法

ニューモシスティス肺炎治療に使われるペンタミジンというお薬は吸入で使用できます。ニューモシスティス肺炎予防に月1回程度予防吸入する使い方が多いです。

ニューモシスティス肺炎予防にはバクタ内服(バクトラミンで1割負担で 48円/1か月あたり)が一般的ですが、バクタにアレルギーがあって減感作しても内服できない、でも代替薬のサムチレール(1割負担 10560円/1か月あたり!)は非常に高価なので患者さんの負担を考えるとなぁ…という時に使います。

ベナンバックスだと1割負担で1か月あたり 780-1560円です。ただ予防効果はやや劣ります。


トブラマイシン吸入療法(トービイ吸入液もしくはトブラマイシン静注用を吸入)

トブラマイシンは元々嚢胞性線維症という難治性の疾患に伴う慢性緑膿菌感染に使われています。

後で詳しく説明します


アミカシン吸入療法(アリケイス吸入液)

2021年5月19日薬価収載されました。適応は難治性の非結核性抗酸菌感染症(肺MAC症)です。


慢性呼吸器感染症はなぜ起こるか

ここで慢性呼吸器感染症について簡単に説明します。

肺の中は本来は無菌の空間です。(口の中や腸内に常在菌がいるのとは対照的です)

そこに菌が入ってくると肺炎を起こしてしまうのですが、肺にも自浄作用があり、例えば肺の粘膜の表面の線毛などを使い菌を外へ外へと追い出しています。そして最終的には痰として体の外に排出します。

ただ先ほど触れた嚢胞性線維症や気管支拡張症、びまん性汎細気管支炎などといった病気ではそういった肺の防御機構が壊れてしまいます。そうすると自分の力で菌を外へ追い出すことができず肺炎をくりかえしてしまいます。特に問題になるのは緑膿菌という菌です。緑膿菌は肺の防御機構が壊れていない人にはほぼ肺炎を起こさないのですが弱っている人につけ込み抗菌薬も効きにくい菌です。


慢性呼吸器感染に対するトブラマイシン吸入療法

自浄作用が失われた肺から緑膿菌を完全に排除するのは不可能です。抗菌薬を使用している間は肺炎の症状を抑えることができるのですが、抗生物質をやめると数日~数週で肺炎がぶり返す方も少なくありません。


もう一つ問題なのが緑膿菌に効果がある抗菌薬は数が限られています。特にそのうちで内服で使用できるのはほぼニューキノロン系の抗菌薬に限られます。また緑膿菌は使用している抗菌薬がそのうち効かなくなる(薬剤耐性)ことが多いです。ニューキノロンが効かなくなれば自宅で継続できる治療は無くなります。結果として肺炎を再発するたびに入院して点滴治療ということになります。(もちろん訪問診療で抗菌薬の点滴を行うこともできますが)


トブラマイシン吸入は元々アメリカで多い嚢胞性線維症(同じく肺の防御機構が壊れる病気)の緑膿菌

感染に使われてきました。

それを援用する形でほかの肺の防御機構が壊れて緑膿菌が感染した病態にも使われています。


本来アミノグリコシド薬は投与量の調節が難しく過量になると腎障害や聴力障害を起こすことがあります。

ただしトブラマイシンを吸入で使用した患者さんの血液の中にどれだけ薬が出てきているか調べた調査ではそのリスクも低いようです。肺以外の他の部位に作用しにくく他の部位の副作用が出にくいという吸入薬の利点がここでも現れています

※同じアミノグリコシドでもアリケイスの薬剤添付文書をみるとある程度腎障害など出現することがあるようです。

吸入療法はネブライザーがあれば自宅でも行うことができます。(薬剤の調整が必要なので訪問看護師さんにやってもらうことになるかもしれません)

週2-3回の使用で再入院のリスクを減らすことができます。また入院での連日使用で点滴薬が効かなくなった方に治療効果を認める例もあります。特に多剤耐性化が進行した肺の緑膿菌感染や頻繁に入退院を繰り返す慢性緑膿菌感染症にお勧めしたい治療です。


当院でも抗菌薬吸入療法を行っています。まずは現在の主治医の先生に相談してみてください。


もっと詳しく

使用するのは

トービイ吸入液300㎎(嚢胞性線維症に適応のあるトブラマイシン吸入液 9045円/1アンプル)

もしくは

トブラマイシン静注用60㎎(本来、点滴用 403円/1バイアル)


1日当たりの使用量は症例報告によりばらつきあり180-600㎎/日です。維持療法は週3回吸入のことが多いので

1日600㎎とすると一か月あたり1割負担で

トービイ吸入液21708円、トブラシン静注用なら4836円 になります。


お金の話ばかりをするようですが、患者さんの生活を考えるとお金は大事な問題です。治療費が生活を圧迫してほしくないですし、どんなに良い治療でも続けられなければ意味がありません。


吸入液の調整(TOB 180㎎/回の場合)

症例報告ではTOB180㎎(静注用90㎎ 2V)を生食10mlに溶いて吸入液としているものが多く、私もそれに則ってやってきました。(高力価だと血中移行が増えてしまうかもしれません)

ネブライザは専用器などはなく一般のものを使用していました。妊娠している人(医療者も含め)が吸入しないように配慮が必要です。


病院勤務時代にも入退院を繰り返す緑膿菌感染者(特にキノロン耐性)に導入し有効性を得た経験があります。ただしそれでも急性増悪が全くなくなるというわけではなく再入院までの間隔が明らかにかなり長くなるといった印象です。

全身投与ではアミノグリコシド単剤では緑膿菌感染治療はやや難しいと思いますが、アミノグリコシド以外に耐性を獲得した緑膿菌に対して急性期に吸入を行った際にも治療効果を認めたことがありました。




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